BS パネルテンショナーについて

車体構造の変化に伴い、使用されている部品の素材も変化しています。ボンネットやフェンダー、ドアといった外から見える外板パネルは高張力鋼板と呼ばれる鋼板が主流となっています。

一般的に引っ張り強さが340MPa以上のものを高張力鋼板といいます。
(ちなみに980MPaを超えると超高張力鋼板と呼ぶようになりますが、この強さの鋼板は内板・骨格パネルのみに使用されています)
高張力鋼板の最大の特徴は以前使用されていた普通鋼板と比べて薄くても強度があること。薄い分だけ車体が軽量化され燃費向上に繋がり、加工性も良いので様々なデザインに対応できるようになりました。

しかし、この高張力鋼板は損傷させた場合、鈑金することが非常に難しいという欠点もあります。高張力鋼板は熱に弱く、薄い分だけ伸びやすい素材です。

損傷により変形した場合、従来の鈑金工法としては代表的である「ハンマリング」と呼ばれる様々な形をしたハンマーとドリーやスプーンと呼ばれる当て板を組み合わせて鋼板を挟み、「押す」・「叩く」・「絞る」・「伸ばす」を繰り返して元の形に成形する鈑金工法や、バーナーのような火器を使用して「絞る」・「伸ばす」という作業を繰り返して元の形に形成する鈑金工法、これら従来の鈑金工法や道具では直せないケースが多くなりました。

特に高張力鋼板が伸びている変形の場合に絞るポイントの見極めを誤ると修理範囲はどんどんと広くなることで収拾がつかなくなり、最悪の場合は部品の交換を余儀なくされることもあるため、繊細な技術力と経験がなければ直せません。

鈑金作業で成形できない場合、パテにより形成する方法があります。パテは粘土の様な素材で主剤と硬化剤を混ぜると科学反応して硬化する2液タイプと呼ばれるものが現在は主流で、硬化する前の粘土の様な状態のうちに変形している箇所に塗布します。自然に乾燥しますが、乾燥を早めるために乾燥機を使用して20分から30分かけて強制乾燥させ、乾燥して硬化したパテをペーパー(紙やすり)により鋼板の形に成形していきます。

パテは厚く盛るために硬いものだったり、仕上げるためにきめ細かく軟らかいものだったり、用途によってその種類も豊富です。以前はパテの材質が良くなかったため、鈑金作業でいかに鋼板を元の形に成形し、パテを付けずに済むかというのが、鈑金作業における技術者の腕の見せどころでしたが、現在は高張力鋼板が主流となったことでの鈑金作業の難易度が上がり、パテがどんどん進化していることで、鈑金ではなくパテによる成形を主とした修理工法に変わりつつあるようです。

しかし、このパテにも二つの欠点があります。一つは水を吸い込んでしまうことです。パテによる成形が完了した後にサフェーサと呼ばれる防錆コートをするのですが、このサフェーサがしっかり施工できていないと雨の時のように水分が車体に付いた時にパテがその水分を吸い込み、吸い込んだ水分がパテの下にある鋼板に触れる事で錆の原因となり、いずれは塗装が内側から剥がれてしまいます。

もう一つの欠点としてパテは痩せることです。パテは硬化すると有機溶剤(シンナー)が揮発して体積が少なくなる硬化収縮(パテ痩せ)が必ず起きます。パテを扱う上で、パテを製造しているメーカーそれぞれが取り決めた保管方法、作業者が実施すべきパテの塗布の仕方や乾燥の仕方、主剤と硬化剤の割合、ペーパーのかけ方等のパテ作業の基本を厳守しなければなりません。

それを怠ると「パテ痩せ」「ペーパー目」といった修理した痕が分かってしまうトラブルが起こります。しかも、すぐにその症状が出るのではなく、数ヵ月後にその症状が出るので、パテを扱う上でのリスクもあります。

こういった鋼材の変化やそれに伴い修理工法が変化していく中で、私たちでは高張力鋼板の新たな修理工法PANEL TENSIONER(パネルテンショナー)を導入して、これまでの従来工法では交換を余儀なくされていた高張力鋼板の修理も可能となりました。

PANEL TENSIONERは伸びてしまった高張力鋼板に『張り剛性』を持たせる樹脂材料(プラスチック)で、紫外線にのみ反応して硬化します。

高張力鋼板は熱に弱いため、パテが化学反応した時に発生する熱やパテを強制乾燥させる時の熱で鋼板自体が変形してしまうことがありますが、PANEL TENSIONERは紫外線にのみ反応して硬化するので、鋼板への熱による影響はありません。

さらに、パテの乾燥時間が20~30分もかかるのに対し、PANEL TENSIONERは紫外線照射機により紫外線を照射すると20秒で完全硬化するので圧倒的なスピード作業が可能です。

また、PANEL TENSIONERは紫外線硬化型であるという特性から、有機溶剤の使用量がパテと比べて少ないため硬化収縮が極めて少ないのも大きな特徴です。鋼板との相性も非常によく密着性が高いうえに、樹脂なので防水効果が高く同時に防錆もできるといったこれまでにはない万能な新工法です。

最近のハイブリット車の様なECOカーの中には更なる低燃費を実現するために高張力鋼板よりも軽いアルミニウム合金を外板パネルに使用するものもあります。これまでアルミニウム合金性の外板パネルは損傷があれば即交換でしたが、このPANEL TENSIONERはアルミニウム合金性の外板パネルにも対応できます。