衝突安全ボディについて

現在の乗用車(トラックやオフロード用のRV車を除く)は軽量で高剛性、量産も可能な「モノコックボディ」(厳密にはセミモノコックやユニタイズドコンストラクション)といわれる骨格構造になっています。自動車におけるモノコックボディは、基本的に単独のフレームを持たず、アンダーボディ(乗員が乗車する床部分)の前後、上下、左右に沢山の鋼板を貼り合わせて作られた箱状の骨格構造です。
そのモノコックボディに、1993年1月に道路運送車両の保安基準が改訂され、1994年4月以降の新型車には新衝突安全基準が適用され、それに対応した骨格構造のものを『衝突安全ボディ』といいます。

衝突安全ボディは、事故の際の衝撃から乗員を守るために、乗員が乗るセーフティゾーン(サバイバルゾーン)といわれるスペースを強固にして、その前後のクラッシャブルゾーンといわれる「つぶれしろ」が事故による衝撃を吸収・緩和する構造です。
現在の衝突安全ボディは、セーフティゾーン以外の車体の全部を変形させる事で事故による衝撃を吸収・緩和する構造は編著で、現在の衝突安全ボディのフレーム修正というのは、『車体全体の骨格修正』ともいえます。

衝突安全ボディとして対応した車体構造の変化に伴い、車体を形成する素材もめまぐるしく変化しています。車体を形成する素材には鋼板が多いのですが、現在の車体構造に求められる鋼板は、安全のために強度があり、燃費向上のために軽く、その時代に合った様々な車体デザインのニーズに応えられる、固くて軽くて薄い(加工性が高い)『高張力鋼板』と呼ばれる鋼板が主流となっています。外から見えるボンネットやドアといった外板パネルの他に、車体のベースとなるアンダーボディ、サイドメンバー、サイドステップ、ピラー(ドアが取り付く柱)等の内板・骨格パネル、そのほとんどに使用されています。

さらに現在の車体構造は乗員を守るだけではなく、人身事故を起こした際の相手の身体に与える傷害を軽減する「歩行者傷害軽減ボディ」と呼ばれる構造を兼ね備えた車体もあり、自動車の構造は様々な進化をしています。
最近でこそダメージャビリティー(対損傷性)やリペアラビリティ(修復性)に注目した車体構造のものが出てきましたが、まだまだ自動車を製造するメーカーでは自動車の安全性や燃費向上、生産性といった新車を売るため、作るための工夫だけが先行し、新構造や新素材に対する修理工法は未開発のまま販売され、事故が発生しだしてから後追いで、私たちのような技術者や自動車の修理機器開発メーカー(自動車製造メーカーではない)が試行錯誤して修理しているのが現状です。

車体の内板・骨格修理は車体整備の4大原則の内『機能と構造』『強度と耐久性』『安全性』を回復させるために重要な修理工程であり、非常に難易度が高く、やり直しがきかない工程でもあります。また、見た目では分かりにくい分、作業者のみが知る工程でもあり、品質を誤魔化すこともできるので、作業者のモラルも問われます。作業者に悪気が無くても構造や材質の変化を知らずに、これまでの修理工法や設備で修理をしたために、品質を落とすこともあるので、定期的な学習も必要です。衝突安全ボディが主流となり、本当に直っている修理工場と誤魔化している修理工場の違いは顕著となっています。

衝突安全ボディの修理には専門的な知識と設備、その両方を活かすことができる作業者の高い技術力とモラルが必要なのです。